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市井紗耶香 「我が闘争」
- 不世出の独裁者、市井が暗殺される直前まで綴っていた自伝。
そのエピソードの数々をここで紹介します。
14歳 芸能界にデビュー
16歳 ミリオンセラー歌手になり一躍国民的歌手に
18歳 某政治家のコネで慶応大学商学部入学
22歳 卒業しソロ歌手兼司会者として独り立ち
24歳 自民党の某大物政治化の子息と結婚
26歳 双子の娘(真希・真里)出産のため一時引退
28歳 芸能界に復帰し若くして大御所として実験を握る
31歳 舅に頼まれ参議院千葉選挙区から自民党公認で当選
32歳 乱闘国会で野党議員に蹴りを入れ注目を集める
34歳 気に入らない質問をした記者に熱湯をぶっかける
37歳 2期目当選、政務次官就任
39歳 司会を務める「うたばん」生放送中に「自民党万歳!!」と叫ぶが共演の石橋貴明に全責任を押し付け自分は無罪放免
41歳 自民党参議院副幹事長就任、国会会期延長を全野党に承服させ「豪腕」の異名を取る
43歳 3期目当選、ついに念願の入閣(文部大臣)を果たす
某月某日 時々、無性に殺戮の衝動に駆られる時がある。昨日も中澤の
ファンを500人ほど会場ごと焼き尽くしてみた。香ばしい
匂いがした。その夜は焼肉を食べに行った。
「ヒトラーもスターリンも所詮ゲスな俗人。私こそが神に選ばれし
真の独裁者の器・・・」将来の帝国君臨を心に誓う市井紗耶香11歳の春。
独裁の第一歩は家族から。自分にひれ伏する両親の頭上に踵を載せ
冷酷な笑いを浮かべていたのは4歳の誕生日。
「私は神に選ばれたのではない、私こそが神である。よって私は私以外の価値観を認めない。」・・・市井12歳学級日誌より抜粋
名著「必然的独裁」・・・小学校卒業記念自費出版
小学校の支配は入学後1週間で終了した。生まれつき持ち合わせた
テクニックを使えば、先生と称する大人など簡単に奴隷にすることが
できた。「くだらんな」足元で快楽をねだる担任の女教師には目もくれず
野心の炎が燃え盛るのを感じていたあの頃・・。
「よろしくお願いします」新メンバーとして紹介された少女を見て動揺
する市井。まだ純粋さが残っていた幼き日「約束」を交わした相手に
うりふたつのその少女こそ、市井と最後まで運命を共にすることになる
「紗耶香の愛人」後藤真希であった。
「さやちゃん、タンポポ入れなかったけど頑張ろうね」
「うん。いつかは私達もユニット組もう」年上ぶって自分
を慰めようとする不細工な女に表面的な相槌を打ちながら、
「落選」という屈辱を噛み締め、次の策略を巡らす市井
だった。とりあえず、このブスも下僕にしておくか・・・。
しかし、この狛犬女が将来自分を追い詰めることになろうとは、
この時は知る由も無かったのである。
国会議員会館で小渕恵三を守衛と勘違いし「おい、おっさん。荷物持ってよ」
と自分のかばんを持たせた初当選登院一日目の市井議員であった・・・・・
国会の議場で居眠りはおろか携帯電話を持ち込んでずっと雑談していた市井議員であった。
「セックスや暴力以外にこれほどの快楽が存在するとは・・」
ピンポンダッシュに溺れた小学4年の夏休み。
彼女の地道な筋トレを知る人はすくない。
まだ幼い後藤にとって、市井の存在感は強烈なものに映っていた。
レコーディングやダンスレッスンで、年上の中澤や飯田を物凄い形相で
罵倒する姿は、TVで彼女が見せる明るい笑顔からは、想像もできない
ものだった。
「ごめんねえ。びっくりさせちゃった?」
あまりの場の雰囲気に萎縮する後藤の姿に気付いた市井が話しかけた。
「あたし、妥協できないタチなんだよ。例え憎まれ役になってもね」
汗を拭きながら爽やかに笑って見せる市井。しかし、後藤は見逃さな
かった。彼女が時折浮かべる大人びた表情を・・・。どこか翳りを帯
びた瞳に潜むものを、後藤は直感的に受け止めていた。
・・・この人は、何かを背負っている・・・・。
「明日香、何が欲しい?」
「あのお星様がいい」
明日香・・・お前が望むなら、私はこの銀河さえ手中にできた。
なのに、何故・・?あの時の自分に、もっと力があったら・・・。
明日香のような少女が幸せに生きて行ける世の中にするためなら、私は
喜んで修羅になろう。生涯を賭けて、約束を果たそう。
なのに、何故お前はそんな目で私を見るのだ?何故、私を哀れむ?
何故なんだ?・・・何故??
「・・いさん、市井さん」
「・・・あすか・・?」
いや、明日香ではない。急に現実に返り、体を起こす。目の前には心配
そうな顔で覗きこむ後藤がいた。
そうか・・・。プッチモニの合宿に来てたんだっけ・・・。
隣では保田が熟睡している。
「大丈夫ですか?凄く魘されてましたよ。」
まだ、あんな昔の夢を見るとは・・・。どうやら、自分で自覚している
以上に後藤を「だぶらせて」いるらしいことに気付き、思わず笑みを
浮かべる。
「市井さん、ちょっと外の空気を吸いに行きませんか?」
「悪い!起こしちゃったんだね」
「いえ、もともと緊張して寝つけなかったんです。保田さん寝てるし、
二人でもうちょっと、振りつけ練習しませんか」
「うん。そうしよっか?」
この時、市井のほうも後藤が自分に向ける感情に、興味以上のものがある
ことを感じ取っていた。
プッチモニ合宿二日目。その日、市井は朝から不機嫌な顔をしていた。
ジョギング、フラフープ等、昨日決めたメニューをこなし、部屋に
戻って振り付けの練習を始めた時だった。
「圭、ビデオ止めな」
ASAYANのスタッフが部屋に残したカメラのスイッチをオフにした
瞬間、市井の蹴りが保田の下腹部を直撃した。
「うぐっ」
「後藤、あんたもここに並ぶんだよ!!」
前夜、後藤に見せた笑顔が嘘だったように、市井の目にはサデステック
な光りが宿っていた。
「圭!!あんた、あの時の屈辱を忘れたの?!タンポポを見返したいん
じゃあ無かったのか??!!おらあァ!!」
容赦のない制裁は30分にも及んだ。怯えて立ちすくむ後藤に市井の
視線が向けられる。後藤の顔は涙と鼻水で、すでにグシャグシャである。
だが、しかし、「・・なんで、ここに・・?」
わけの判らない言葉を発して倒れたのは、市井のほうであった。
39度を超える高熱。無理もない。既にメンバー、事務所、テレビ東京
など、持ち前の知略と性技を駆使して着々と配下を広げつつある市井
であったが、肉体は15歳の少女なのである。寝るひまも惜しんでの活動
のツケが回って来たのだ。
「すぐタクシー呼んでくるね」
保田が部屋を飛び出して行く。
あれ?後藤はこの時、保田が意外に軽傷なことに気付いた。
それに・・・、保田さん、顔は殴られていない・・・。市井さん、ちゃんと
気を遣っていたんだ・・。ぐったりした市井を抱きかかえる後藤の胸が
熱くなる。 市井さん・・・・。
「・・○○か」
まただ・・・。よく聞き取れないけど、市井さん、昨夜と同じ人の名前
呼んでる。あたしと間違えてるのかな・・・・。
切ない気持ちに襲われ、後藤は自分から市井と唇を重ねた。熱のせいか、
柔らかく暖かな感触だった。
朦朧とする意識の彼方で、市井は理解した。何故、入ったばかりの後藤
が、いきなりメインをやることに反対しなかったのか。自分をメインに
することだって出来たのに。
そうか・・。 自分の中に、失ったはずの感情が残っているのに驚き
ながら、何時の間にか深い眠りに落ちて行く市井であった。
後藤から体を離すと仰向けになり、マルボロに火をつけ、深く吸いこむ。
「真希、次の選挙、出るぞ」
「えっ?」
快楽の余韻に浸る間も与えられず、驚いた顔の後藤を無視するかのように、
市井の抑揚の無い声が響いた。
「アイドルはもう終りだ。明日、私は20歳になる。1ヶ月後に内閣解散の情報
も既に入っている。勿論、根回しもな。トップ当選は確実だ。」
なんていう人なんだろう。この5年間で芸能界はおろか、マスコミにまで
触手を伸ばしていたのは、こんな目的があったのだ。後藤は今更ながら、市井の
底知れない権力への追求と実行力に驚くと同時に、一抹の淋しさを感じていた。
私は紗耶香様といつも一緒に居るのに、彼女のことを何も知らないのかも
知れない・・・。傍に居ながら、物凄く遠くに感じる時がある。
「そんな顔をするな。見ていろ、3年以内に大臣になってやるから」
「あん・・・。また・・」
首筋に受けるキスに、理性のスイッチをオフにされた後藤は、そのまま悦楽
の行為に没頭して行った。
スロットルを全開にしてレッドゾーンまで叩きこむ。V6エンジンの獰猛で
官能的な咆哮が、真夜中の湾岸線に轟く。アルファロメオのステアリングを
握る時、全てのストレスから開放されるような錯覚に陥る。だが、多忙な市井
には楽しむ時間など、ほんのひとときに過ぎない。案の定、携帯の着信が無粋
な音で割りこんできた。助手席の後藤が手に取る。
「おはようございます。御世話になっております」
後藤の応対には、かつての幼稚さは微塵も無かった。
「紗耶香様、つんく社長からです」
選挙には莫大な金が必要になる。既に芸能界とマスコミの一部を牛耳ってきた
市井ではあったが、今や世界屈指のレコード会社社長のつんくの財力は心強い
味方である。
「ええ、よろしく頼みますよ。お互いこれからも、持ちつ持たれつって
ことで・・」
市井の野望は、まだまだ始まったばかりなのだ。
当選は市井の思惑通りだった。根回しの見事さは勿論だが、10代のうちから
政治や経済の勉強も怠らなかったことは正解だった。特にアイドル時代、
TVの生番組で田原総一郎、舛添要一といった並み居る論客を次々と論破
してみせたことは、世間の識者層をおおいに唸らせた。立候補の時点で、
既に彼女は単なる芸能界のスーパースターでは無くなっていたのである。
「トップ当選、おめでとうございます」
「先生、例の件、よろしくお願いしますよ」
華やかなパーティーの中、主役である市井は話しかけてくる政財界の大物
のランク付けも怠らない。どいつが使えるのかを見極めるのは、今回の重要な
ポイントなのだ。
真希のやつ、上手くやってるかな・・・・。鳩山の許へ裏工作に行かせた
後藤に思いを向けたとき、市井の視界の隅に小柄な女の姿が入ってきた。
彼女が化粧室に向かうのを見とめると、迷わず後を追う市井。間違いない!
幸い、こっちの通路には人影がない。
「真里!」
見覚えのある顔が振りかえった。
「ちぇっ。あんたに見つかる前に消えようって思ってたのに」
「ばあか。お前みたいにちっちゃいの、見間違うわけ無いだろ」
脹れっ面をする矢口の顎に手をやり、顔を近づける。
「やだよ!あたしはもう・・・」
市井の手を振り払おうとする矢口。
「うふふふ・・。どっかの御曹司と結婚したとは聴いてたけどね。ねえ、
また昔みたいに協力してよ。旦那は旦那、あたしはあたし。
それでいいじゃん。 ネ。」
・・・この人から逃れるための結婚だったのに・・・。
廊下の壁に押しつけられ、市井の指が蠢きだすと、もう抵抗できなくなっていた。
「・・いや・・真希に悪い・・んっ・・」
3年たっても体は忘れていなかった。市井の指と唇を忘れられる女など
居る訳がないのだ。
・・・お帰りなさい。小さなしもべ。
自ら舌を絡めてくる矢口の反応を確認しながら、早くも次の策略を巡らす
美しい悪魔の姿があった。
「永田町のジジイどもめ・・・」
またしても法案を潰され、市井の怒りと焦燥は限界に達していた。
議員になって1年。当初の計画とは裏腹に、未だろくな役職を得られない
現状は、市井のプライドを大きく傷つけていた。勢力の拡大が、これだけ
長く停滞するのは初めてのことだ。
永田町は確かに妖怪の巣窟だ。生意気な小娘に対する妖怪達の畏怖と警戒心
は、徹底した市井潰しとなって表れた。このままでは3年で大臣の夢はおろか、
現状維持すらおぼつかない。急がねば・・・。
「遅い!遅い!遅い!遅い!遅い!遅い!!!!!」
議員会館の一室で、叫びながらウロウロする市井に、秘書の一人ある中澤が
なだめにかかる。
「まあ落ちついて座りいな。焦らんでもええやんか」
「うるせえんだよ!あたしに指図するな!!!」
気を遣ったつもりの中澤の言い方が、却って癇に障ったようだ。
・・・どうしてそんなに急ぐの?まるで運命に駆り立てられるかのような
市井の姿は、後藤には生き急いでいるように思え、堪らない気持ちになる。
「ごめんなさい、紗耶香様。私が至らないから、私が力不足だから・・・
ごめんなさい・・・ご、ごめん・・な・・・」
「わかった!判ったから泣くんじゃないよ。この子は・・。あんた達のせい
じゃないよ」
ふう・・。やっぱり、この子には勝てへんなあ。紗耶香様の機嫌を直せるんは・・・。
中澤は軽い嫉妬を覚えながら、二人の様子を優しげに見守っていた。
「後藤、中澤、行くよ。場所を変えて練りなおしだ!」
私は負けない。「約束」を果たすまで。
銃声がしたわけではない。市井の持つ、研ぎ澄まされた感覚のなせる技だった。
咄嗟に中澤を突き飛ばすと、自分も身を伏せる。頬をかすめた銃弾が、特注の
アルファロメオのボディに食い込んだ。
クソジジイが・・・。いよいよ力技で来たか。異変に気付いたSP達が、辺りの
捜索を始めるが、ネズミは既に姿をくらましたらしい。
「やってくれるやんか」
中澤がドスの効いた声で暗闇を睨む。
「目には目を。力には力・・・。ふっ・・権力を手っ取り早く掴むのは、やっぱり
これしかないようね・・・・。」
「紗耶香様・・・?」
「あんた達、私について来る覚悟はできてる?」
「決まってるやん。そんなん。」
「紗耶香様の行くところ、地獄の果てまでお供します!」
「いいの?本当に地獄かもよ?うふふふ・・・」
笑いながら議員バッジをおもむろに外すと、暗闇に向かって投げ捨てる。
未練は無い。これが私らしいやり方かも知れない。
「さようなら。民主主義という名の老人達。未来は私が導いてあげる」
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